閲覧支援機能とアクセシビリティ
この記事は2016年8月3日に書かれたものです。情報が古い可能性がありますのでご注意ください。
近年、主に自治体等のサイトで、文字サイズを拡大したり背景色を変更したりできる機能(以下、“閲覧支援機能”とします)を提供しているサイトをよく見かけます。よくWebページの上部にある、「文字サイズ:[小][中][大]」とか「背景色:[白][黒][青]」などとあるボタンです。読み上げ機能や漢字にルビを振る機能が提供されている場合もありますね。自治体サイト向けの CMS に標準で閲覧支援機能が付属しているものが多いからということもあるのでしょう。
ただ、このような機能を提供することは悪いことではないと思いますが、閲覧支援機能を提供することがアクセシビリティだと、勘違いされているケースがかなり多くあるように感じます。
中には、Webサイトのアクセシビリティについて記載されているページに、閲覧支援機能を提供していることだけが、あたかもアクセシビリティに配慮していることをアピールしているかのように書かれているサイトも見受けられます。そのため、一般ユーザーまでもが、閲覧支援機能が提供されてないWebサイトは文字サイズを拡大したり背景色を変更したりすることができない、アクセシブルではないと判断してしまう懸念もあります。
閲覧支援機能を提供することとアクセシビリティとは本来関係のないものだと思います。アクセシビリティ規格の JIS X 8341-3 や WCAG 2.0 にもそのような機能を提供することは一つも書かれていません。
本来、文字の大きさや背景色は、ユーザーが使用している OS やブラウザの設定によって自由に変更されるものです。ディスプレイの白い光を眩しく感じる弱視等の方は、最初から Windows のハイコントラスト設定で黒背景にして利用されてますし、小さな文字が読みにくい方は OS やブラウザの設定で解像度を低くしたり文字を大きくしたりして利用されてます。そのような様々な閲覧環境において、問題なくWebサイトが閲覧できて情報が伝わることが重要です。
例えば、文字サイズを CSS で 12px などと絶対単位で指定すると、Internet Explorer の表示メニューから文字のサイズを「大」や「最大」に変更しようとしても大きくなりません。
(2000年代前半までの Internet Explorer 全盛期、ユーザーによる文字サイズ変更を無視し、デザイナーが意図した通りに表示させようと、文字サイズを当時主流の 12px に固定したサイトが数多くありました。)
また、Windows のハイコントラスト環境では、枠線は白一色、背景色や背景画像は一切表示されなくなります。
(Mac にはハイコントラストの設定はなく、アクセシビリティ設定によって、背景を含めて全ての色を反転したりグレースケールにすることができます。)
閲覧支援機能によって文字サイズや背景色が変更できても、ユーザーの環境で文字を大きくすることができなかったり、ハイコントラスト環境で必要な情報が見えなくなってしまったのでは本末転倒です。
特に、ナビゲーションやメニューなどのボタン画像が背景画像として配置されているために、ハイコントラスト環境では見えなくなってしまうサイトが多々あります。サイト側で提供している背景色を変更する機能で黒背景にした時に問題なくても、OS のハイコントラスト設定で黒背景にした場合に必要な情報が見えなければ意味がありません。
意味のある画像はきちんと alt 属性を付けた img 要素で HTML に記述すべきですし、ナビゲーションなどの画像の場合は画像ではなくテキストで提供することを考えるべきだと思います。文字サイズを拡大する機能を提供してあるにも拘らず、画像の文字が小さくて拡大できないという矛盾したサイトもありますし。
また、ページを読み上げる機能を提供することが読み上げ対応だと思われている場合もありますが、これも決して機能を提供することではありません。主に視覚に障害があるユーザーが利用されているスクリーンリーダーや音声ブラウザなどの読み上げソフトで、きちんと情報が得られ、操作することができなければなりません。Webサイト側で提供されている読み上げ機能の多くは、ただつらつらとページを読み上げるだけで、操作することはできませんね。
唯一、漢字にルビを振る機能は有用なのかなと思ったりします。また、文字サイズを拡大する機能についても、最近のブラウザは画像を含めて画面を拡大するズームが基本となり、Google Chrome や Microsoft Edge は文字だけを拡大する機能がありませんし、Internet Explorer 等を使っていても文字だけを大きくする方法を知らないユーザーも多いと思いますので、あってもよいのかなと思うこともあります。
一方、閲覧支援ツールをダウンロードしてインストールすることで機能を提供しているサイトも多くありますが、ユーザーにツールのインストールを要求することは決して良い方法とは思えません。“ダウロード”とか“インストール”といった言葉だけで敬遠してしまうユーザーも多いからです。
いずれにしても、このような閲覧支援機能を提供することとアクセシビリティは本来関係のないものです。むしろユーザビリティとして捉えるべきものかもしれません。でも、あるサイトで閲覧支援機能が提供されていて、文字を大きくしたり背景色を変更して閲覧していても、リンクから別のサイトに移動したら当然その設定は引き継がれません。そのことに戸惑ってしまうユーザーもいるかもしれません。
閲覧支援機能の提供は悪いことではありませんが、必要なものでもありません。それ以前に、本来のアクセシビリティに配慮してWebサイトが作られ、ユーザーの様々な環境で問題なく閲覧できること、操作することができて必要な情報を伝えることができることが大切であると考えます。
“閲覧支援機能とアクセシビリティ”への 2 件のコメント
kazさんより:
現在、ウェブの更新に当たり、アクセシビリティの確保について悩んでいたのですが、このブログを読んで、
「本来、文字の大きさや背景色は、ユーザーが使用している OS やブラウザの設定によって自由に変更されるものです。」(本文より引用)
というのが本当の意味でのアクセシビリティの確保なのだということがわかり、すっきりしました。
石輪さんより:
このブログ記事がお役に立てて何よりです。
私もまだまだ勉強中ですが、見かけだけはなく、本当の意味でアクセシブルなWebサイトが増えていくといいなと思っています。