2016年8月3日の投稿「閲覧支援機能とアクセシビリティ」でも書いたのですが、Webサイト側で、文字サイズの拡大や背景色の変更、画面を読み上げる機能を提供することは、ウェブアクセシビリティとは本来関係のないものです。

弊社の所在地である島根県と島根県内19市町村、計20の自治体の公式サイトを確認したところ、実に18の自治体サイトで文字サイズの変更機能を、背景色の変更機能は16の自治体サイトで、そして読み上げ機能は3つの自治体サイトで提供していました。

もっとも、多くの自治体サイトでは JIS X 8341-3:2016(または 2010)の適合レベル AA 準拠を目標としたウェブアクセシビリティ方針を掲げ、これに則って試験結果を公開していますので、支援機能は付加的なものとして提供しているものと思いますが(決して文字サイズ変更機能の提供をもって「1.4.4 テキストのサイズ変更の達成基準」を“合格”などとするのではなく)、残念ながら2つの自治体サイトでは、文字の拡大機能と背景色変更機能だけをアクセシビリティの取組として掲載していました。

本来、文字の大きさや背景色は、ユーザーが使用している OS やブラウザの設定によって、ユーザー自身が使いやすいように設定するものですし、読み上げが必要なユーザーはスクリーンリーダーなどの音声読み上げソフトを利用しています。そのような様々な閲覧環境において、問題なくWebサイトが閲覧できて情報が正しく伝わることが重要です。

2022年12月にデジタル庁から公開された「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」の中で、「3.4 よく検討して導入すべきこと」として、以下のように書かれています。

文字サイズの変更、読み上げプラグインの利用は非推奨

 支援技術が必要な利用者は、既に OSの支援技術、アプリの支援技術、ブラウザの機能拡張を使っていることが多いため、サイトで支援技術を提供すると過剰対応になってしまいます。また、利用者がサイトを閲覧するときに、サイトに支援技術の機能を実装してアクセシビリティを高めても、他のサイトでは使えないので効果は極めて限定的です。どのサイトも同様の支援技術を用いて閲覧できることを目指すべきです。

ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック – デジタル庁(PDF 13,480KB)

また、以前から総務省で公開されている「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」でも、「2. 取組が必要な背景」の中の「2.1.4. ウェブアクセシビリティ対応に関する誤解」として、以下のように書かれています。

注意点!
ホームページ等において、音声読み上げ、文字拡大、文字色変更等の支援機能を提供する事例がありますが、これだけでは、ウェブアクセシビリティに対応しているとは言えません。

利用者は、多くの場合、音声読み上げソフトや文字拡大ソフトなど、自分がホームページ等を利用するために必要な支援機能を、自身のパソコン等にインストールし必要な設定を行った上で、その支援機能を活用して様々なホームページ等にアクセスしています。つまり、ホームページ等の提供者に求められるアクセシビリティ対応とは、ホームページ等においてそのような支援機能を提供することではなく、ホームページ等の個々のページを JIS X 8341-3:2016 の要件に則り作成し提供することにより、利用者がそのページを閲覧できるようにすることです。

みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)- 総務省(PDF 3.5MB)

つまり、文字サイズの変更や背景色の変更、読み上げなどの支援機能を提供することはウェブアクセシビリティ対応の誤解であり、非推奨なのです。

お隣り鳥取県では全ての自治体サイトで文字サイズ変更と背景色変更を含む支援機能を提供していました。因みに、ウェブアクセシビリティ方針を掲げている自治体サイトは僅かです。
全国的にも何らかの支援機能を提供している自治体サイトが圧倒的に多いですね。政府の各府省庁のサイトも半分以上が文字サイズ変更をはじめとする何らかの支援機能を提供しています。

このような支援機能を提供することがアクセシビリティであるという“誤解”が広く伝わっていたか、誤解でなくてもそれがスタンダードとして広く認識されてたんだと思います。

各府省庁の比較的新しいサイトはこのような支援機能は付いていません。それぞれのWebサイトが独自の支援機能を提供するのではなく、OS やブラウザが持つ支援機能やスクリーンリーダーなどの支援技術を用いて問題なく閲覧できる状態にすることが、ウェブアクセシビリティを確保するうえで最優先すべきことであると考えます。