最近、「アクセシビリティ対応が義務化されます!」とアナウンスしているサイトやブログ記事、SNS等で流れてくる広告を見かけることがあります。2024年4月1日に施行される「改正障害者差別解消法」において、これまで行政機関に義務付けられていた「合理的配慮」の提供が、民間の事業者に対しても義務化されることを受けてのことのようですが、これは拡大解釈になるようです。

この改正法では、「合理的配慮」を的確に行うための措置として「環境の整備」が努力義務となっており、その「環境の整備」に「情報アクセシビリティ」が含まれていることから、Webサイトのアクセシビリティ対応が必要となるのですが、義務化されるのはあくまで「合理的配慮」の部分で、「環境の整備」は努力義務となります。したがって、Webアクセシビリティ対応が義務化されるわけではないことがわかります。

このことは、政府広報オンラインの「ウェブアクセシビリティとは? 分かりやすくゼロから解説!」の中で、コラム「民間事業者の合理的配慮が義務化されます」として書かれています。

努力義務である「環境の整備」に含まれるWebアクセシビリティ対応を怠ったからといってすぐに法に抵触するわけではありませんが、使いづらいWebサイトを放置しておくことは、「合理的配慮」に該当する事象を発生させる可能性がないともいえませんし、社会的に問題視されることもありえます。

一方、今回の法改正で、「合理的な配慮」が義務化されたことをもって「Webアクセシビリティ対応が義務化されます」として、文字サイズの変更や色の反転、読み上げといった機能を後付けするツール(アクセシビリティオーバーレイと呼ばれる)の提供を行うサイトが増えていますが、導入には慎重な検討が必要です。

  • アクセシビリティ・オーバーレイを導入するだけでJIS X 8341-3:2016に対応することは不可能です。
  • アクセシビリティオーバーレイの機能の多くはOSやブラウザの機能でも提供されていますが、Webアクセシビリティ対応がなされていないとこれらが有効に機能しません。アクセシビリティオーバーレイを導入することなく、これらの機能が利用できるようにすることが重要です。
  • アクセシビリティオーバーレイは、それだけではWebアクセシビリティに対応できないうえ、アクセシビリティを後付け対応ととらえるマインドを醸成してしまう可能性があります。

このことは以前のブログ記事「文字サイズの変更、背景色の変更、読み上げなどの支援機能の提供は非推奨」でも書いています。

アクセシビリティオーバーレイを導入することで、例えばOSやブラウザの機能を知らないユーザーが多少の恩恵を受けることはあるかもしれませんが、このような後付けの機能だけでアクセシビリティ対応することはできません。

後付けではなく、Webサイトの構築あるいは改修段階でWebアクセシビリティに対応し、運用段階においてもそれを維持していくことが重要です。